僕たちの時間(とき)
*
何となく予感はあった。――限りなく確信に近い、予感が……。
土手に並ぶ満開の桜。そして〈卒業式〉。
この2つのキィワードが、自然と僕の足をこの場所に向けていた。
今、僕と藤沢はその樹の下に並んで腰を下ろし、降りしきる雪のような花びらを、ただじっと眺めていた。
さっきまで僕の腕の中にいた天使が、今は隣に座っている。僕の肩に軽くもたれて。
まるで、梢で翼を休めている、安らぎの天使。
――やはりここは、天使しか許されない場所なのだ……。
「ボタン…、全部あげちゃったんだね……」
ふと気付くと、藤沢はいつの間にかこちらを向いていて、前がはだけた僕の学ランを眺めていた。
その微笑みに、ほんの少し淋しさが見えるのは……僕の、自惚れなのだろうか……。
「むしり取られたに等しいけど……」
「渡辺くん、モテるから」
「冗談! 例えそうだとしても、“本当に好きなコ”に好かれなきゃ、意味がない」
「そうよね……ごめんなさい……」
(――こいつ…、全ッ然、わかってない……!)
“本当に好きなコ”の前で、こう言ったというのに……藤沢は、自分が僕に“本当に好かれている”とは、全く思ってもみてくれないのだろうか……?
僕はポケットから出した握りこぶしを、彼女に向かって、黙ってスッと差し出した。
「え…?」
「手、出して」
「…………?」
開かれた彼女の手の中に、僕は握っていたモノをコロンと落とす。
「ボタン……?」
「オレの“ここ”にくっついてたヤツ」
僕は、自分の心臓の真上を、トントンと指で示した。
そして、驚いたように目を見開く藤沢をじっと見つめて、すぅーっと大きく、息を吸い込む。
「藤沢にあげたかったんだ。第2ボタンだけは……」
一生分の勇気を絞り出したような…そんな必死の想いでもって、僕は彼女にそう告げた。
言ったすぐ後で顔がカァッと火照り、ドキドキと胸の鼓動が高鳴って……そのあまりに、僕は彼女を真っ直ぐに見つめることができず、そのままツッと横を向いてしまった。
藤沢にどう思われただろう……? 内心ビクビクしながら、その“時”を待った。
何となく予感はあった。――限りなく確信に近い、予感が……。
土手に並ぶ満開の桜。そして〈卒業式〉。
この2つのキィワードが、自然と僕の足をこの場所に向けていた。
今、僕と藤沢はその樹の下に並んで腰を下ろし、降りしきる雪のような花びらを、ただじっと眺めていた。
さっきまで僕の腕の中にいた天使が、今は隣に座っている。僕の肩に軽くもたれて。
まるで、梢で翼を休めている、安らぎの天使。
――やはりここは、天使しか許されない場所なのだ……。
「ボタン…、全部あげちゃったんだね……」
ふと気付くと、藤沢はいつの間にかこちらを向いていて、前がはだけた僕の学ランを眺めていた。
その微笑みに、ほんの少し淋しさが見えるのは……僕の、自惚れなのだろうか……。
「むしり取られたに等しいけど……」
「渡辺くん、モテるから」
「冗談! 例えそうだとしても、“本当に好きなコ”に好かれなきゃ、意味がない」
「そうよね……ごめんなさい……」
(――こいつ…、全ッ然、わかってない……!)
“本当に好きなコ”の前で、こう言ったというのに……藤沢は、自分が僕に“本当に好かれている”とは、全く思ってもみてくれないのだろうか……?
僕はポケットから出した握りこぶしを、彼女に向かって、黙ってスッと差し出した。
「え…?」
「手、出して」
「…………?」
開かれた彼女の手の中に、僕は握っていたモノをコロンと落とす。
「ボタン……?」
「オレの“ここ”にくっついてたヤツ」
僕は、自分の心臓の真上を、トントンと指で示した。
そして、驚いたように目を見開く藤沢をじっと見つめて、すぅーっと大きく、息を吸い込む。
「藤沢にあげたかったんだ。第2ボタンだけは……」
一生分の勇気を絞り出したような…そんな必死の想いでもって、僕は彼女にそう告げた。
言ったすぐ後で顔がカァッと火照り、ドキドキと胸の鼓動が高鳴って……そのあまりに、僕は彼女を真っ直ぐに見つめることができず、そのままツッと横を向いてしまった。
藤沢にどう思われただろう……? 内心ビクビクしながら、その“時”を待った。