僕たちの時間(とき)




「ねぇ、もうちょっととばせないの?」

「そうは言ってもねぇ、お客さん。この通り、道が混んでて……」

「お願い、なるべく急いで下さい!」

 満月と運転手のこんなやりとりを聞きながら、水月はチラリと腕時計を見る。

(もう、間に合わないかもしれない……)

 今、水月と満月はタクシーの中にいた。

 水月の体調を心配した、付添人・満月の配慮である。

「もうとっくに始まっちゃってるわね……病院抜け出すのに、思ってたより手間くっちゃったからなぁ……」

「そうね……」

 満月のボヤきに、無機質に応える水月。

 そんな、いつもよりずっと口数の少ない妹を見つめ、小さくタメ息をつくと。

 満月は運転手に向かって勢い良く叫んだ。

「あぁもう! とにかくどーでもいいから、思いっきり急いでねっっ!!」
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