僕たちの時間(とき)




 やっぱり水月は来ないのだろうか……もう、あきらめた方がいいのかもしれない。

 僕は息を吐き、マイクを構え直す。

「ラストナンバー……」

 言いかけた時、客席真後ろの扉が開いたのが、僕の目に映った。


(――――!?)


 わずかな期待が…、――喜びに、変わる……!


(水月……!!)

 見間違えるはずがない。

 そこにあるのは、真っ直ぐに僕を見つめる、水月の真摯なまなざしだった。

 僕のカオに笑みが広がる。

(来てくれたんだ……!)

 なぜだろう。こんなことが、泣きたいほどに嬉しい。

 ハハッ…と、軽く息で笑いながら俯いた僕の肩に、そこで手が置かれた。

 光流だった。

 光流も気が付いたのだろう。

 振り返った僕に小さく笑いかけ、そして僕の手の中からスッとマイクを抜き取った。

「これからやる、このラストナンバー……実はコレ、まったく作詩しかしないこのサトシが、初めて作曲まで手掛けた力作なんだ。――な、サトシ?」

 そんな声が流れ、静まっていた客席に小さくざわめきが走った。

 歓声まがいの声が、あちこちから投げ掛けられる。

 光流は僕にマイクを手渡すと、1つ、僕を見つめてしっかりと頷いた。

 僕も光流に頷き返すと、マイクを構え、喋り出す。

「まぁ…そういうことなんだ。初めての試みだし、みんなに気に入ってもらえる出来になったかどうかは、ちょっと自信ないけど……とりあえず、聴いてみてくだサイ」
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