僕たちの時間(とき)
『自信持って!』『頑張れ!』――客席から飛んできたそんな声に、僕は思わず苦笑する。

「ありがとう…。ホントなら『今日来てくれたみんなのために』とか『聴いてくれるみんなに捧げマス』とか、言う方がカッコイイんだろうけど……。――でも、ごめん。みんなのことは大好きだし、いつでも大切に思ってるけど……今日のこの時だけ、この曲だけは……! たった1人のひとのためだけに唄うことを、許して欲しいんだ……」


 トシが、ピアノで前奏を奏で出す。

 いつの間にか客席はシンと静まりかえっていた。

 硬質な音が、そんな空気に融(と)けてゆく。


 ――生まれる、新しい時間(とき)。


「たった1人の、オレの一番大事な女性(ひと)に……この想い(うた)を、伝えたいから……」


 緩やかなメロディ。

《ウォーター・ムーン》にはめずらしい、シリアスバラード。

「タイトルは……」

 気持ちの伝わる素直な言葉……“僕の歌”のタイトルに、横文字なんて似合わない。


 ――真っ直ぐに、水月を見つめる。


「『永遠を、君と……』」


 僕は息を吸い込み、

 優しい音楽(メロディ)に、そっと、言葉をのせた―――。
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