僕たちの時間(とき)
「気付いたんだからいいじゃない、それで。そう思ったのなら見ててあげなさい。そう思うのなら、今の聡くんから目を逸らしちゃだめよ。聡くんが今唄っているのは、水月のためだけの、聡くん自身の“想い”、なんだから……」

 満月の言葉に、水月はステージを降り仰ぐ。

 聡は、煌めくライトの中で輝いて見えた。

(眩しい、よ……いつもよりずっと、ずっと……!)

 水月は思わず目を細める。

(私には、何ができる……?)

 聡くんは、あんなにあたたかい心を私にくれる。

 でも、私はまだ何も伝えていない。

(行かなきゃ……!)

 水月は、そのまま1歩前に、足を踏み出した。

「水月? どうしたの?」

 満月が不思議そうに声をかけた。

 ――と同時、水月は人込みの中へと向かい駆け出していた。

「水月っ…!? ――ちょっと、待ちなさいっ……!!」

 満月の制止も耳に入らず、水月は人込みをかき分けてゆく。

(行かなくちゃ……!)

 ――最前列をめざして。


(行って伝えなきゃ…! 私の気持ちは、まだ、“ここ”にあるのに……!!)
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