僕たちの時間(とき)
(―――あの時と、同じだ……)


 あの卒業式の日と同じように、僕の胸に何かあたたかなものが満ちていくような……。

 これは水月から僕に……?

 水月の、想い……?


 後ろでは、皆が気を利かせてくれたのか、間奏をいつもより長くしてくれている。

 僕は、そっと水月に歩み寄った。

「ごめんなさい……本当に、ごめんなさいっ……!」

「何をあやまってんだよ、水月……」

 水月のすぐ目の前に立ち、そしてかがみ込んで彼女の涙をぬぐう。

「なに泣いてんだよ。オレは笑ってる水月の方が、好きなんだけど?」

「聡くん……!」

「あやまるよりまず、笑って欲しいな」

「聡くんっ……!」

 泣きながらも、水月はにっこりと微笑んだ。

 ――そう、僕の大好きな“天使の微笑み(エンジェル・スマイル)”。

 僕はそして、その涙に濡れた水月の頬に手を添えて。

 優しく、そっと、キスをする。


 ――その時。

 音楽も歓声も、何もかもが。

 僕には、すべてが遥か遠くに、聴こえていた……―――。






  もう泣かないで

  涙をふいて

  愛しい僕の天使…―――
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