僕たちの時間(とき)
 やっと出たその声に、藤沢は驚いたように言葉を止めた。

 その瞳が不思議そうに僕を見つめる。

「オレだって、ここに来ようと何度も思ってたんだ。でも……」

 顔に血がカァッと上ってくるのを感じながら、僕は続ける。

「ここは…“聖域”、だったから……」

「え……?」

「藤沢は、オレにとって“天使”だったから……“天使”だけしか入れない“聖域”に、オレみたいなヤツが入ることなんて許されないって……そう、思ってたから……!!」

 言ってて、ものすごく恥ずかしかった。

 この時の僕の顔は、きっと思いっきり真っ赤だったことだろう。

 でも、藤沢にだけは嘘は吐けなかった。吐きたくなかった。

 あの、真っ直ぐな瞳にだけは……!

 赤くなって俯いた僕を見、少しの沈黙の後、藤沢は言った。――クスッと笑って。


「やっぱり、渡辺くんだ」


「え……?」

 顔を上げた僕の目に、いつか見た“天使の微笑み(エンジェル・スマイル)”が映っていた。

「やっぱり、私が思ってた通りの渡辺くんだった」

「藤沢……?」

「私もね、そんな渡辺くんが好き」

「えっ…!?」

 いきなりキッパリはっきり言われて面食らった僕に、とびきりの笑顔を添えて、彼女は言った。

「ここが“天使の聖域”なら、渡辺くんにだって相応しいところだよ。だって渡辺くんは、私の“天使”になってくれた人なんだから!」


 見つめ合う僕達を優しく風が包み、花びらをのせて舞い上がる。

 僕の心はもう、あたたかく優しい“水”で、満たされ、癒されていた。


「さんきゅ……」


 やっと僕は笑みを浮かべ、藤沢にそう告げる。

 それから、いつの時代でも変わらない…たった1つの、想いを伝える言葉を……、

 花びらと共に、風にのせた。


「オレも、おまえが……」


 ―――好きだ……!
< 15 / 281 >

この作品をシェア

pagetop