僕たちの時間(とき)
「どんな方だったんですか、その人……」

 差し出がましかったかしら……!?

 言ってしまったすぐ後でハッとする。

 でも聞いてみたかったのだ。

 ――何故かはわからないのだけど……。

 しかし彼は、

「優しくて……それでいて強いひとだったよ」

 その彼女がすぐ隣にでもいるような気軽さで、嬉しそうに答えてくれる。

「あいつがいるだけで、周りが幸せになれるような……“天使”のようなひと、だった」

「――幸せ…だったんですね……あなたも、その“彼女”も……」

 ポロッとこぼれた私のその一言で。

 彼は驚いたように振り返り、私を凝視した。

「君っ……!?」

「あ、ごめんなさいっ…! あなたが彼女のことを本当に愛していたんだろうなって、思ったら、つい……」

 さすがに出過ぎたマネをしたらしい。

 私はとにかく謝った。

「ごめんなさい……」

 しかし彼は、別段怒りもしなかった。

 それどころか、不意にふわっと微笑みかけてくれたのだ。

 とてもとても、柔らかな優しい笑顔で。

「それだけで……『幸せ』だったと、思ったの……?」

 その笑みは、私の胸をときめかせる。

(なんてキレイな表情で笑うんだろう……)

「あ、ハイ、あのっ…! さっき『“天使”のようなひと』だって言ってたから……きっと彼女の方もあなたを“天使”だと思ってたんだろうなって、そんな気がして……そこまで想い合えたら、きっとお互いすごく幸せだったろうなって……そう、思って……」

 ドキドキしてシドロモドロになりながらも、やっとのことで言い終えて彼を見上げると。

 彼は、また私を凝視していた。

 私が話し止んだことにも気付かない様子で。

「あの……何か……?」

(気に障ったことでも、言ってしまったのだろうか……?)

 戸惑いながらそう聞くと、彼はそこで我に返ったようにハッとし、そして軽く微笑んだ。
< 150 / 281 >

この作品をシェア

pagetop