僕たちの時間(とき)
「君は……綺麗な瞳(め)をしてるんだな……」

「え……?」

「真っ直ぐで強い瞳……あいつもそんな瞳(め)をしてたよ……」

「…………」

「あいつは最期の最期まで、強くて優しくて……自分の身体はどこもガン細胞に犯されていて、使えるのは“目”しかないから、って……この瞳がガンに犯されないでいるのは“奇蹟”だから、って……アイバンクに登録までして、さ……」

「――ガン、細胞……!?」

(この人は…! 愛する人をガンで亡くしてるんだ……!!)

 私には想像することでしか計り知れないけれど、さぞかし辛い闘病の日々だったはずなのに……! 決して幸せばかりの日々じゃあ、なかっただろうはずなのに……!!

「オレが綺麗だと言った瞳だけでも生かしたいって……そう、言ってくれて……」

(どうして、そんなにも穏やかに想い続けていられるんだろう……?)

 2人の間に……2人以外の誰にも“見えないもの”が、存在している……?


(――“愛”が……そこに、ある……?)


「きっと……またあなたを見つけるんでしょうね……」

「え……?」

(知りたい……)

 知ってみたいって思った。

 私が到底知り得ない、そこに在る真実(もの)を。

 気がついたら言っていた。

「きっと今、どこかで誰かの瞳となって、またあなたを見つめていると思いませんか?」

「君……」

「また逢えると、いいですね……」

「…………!」

 私を驚いたように見つめる彼の表情が、泣き笑いのようになる。


 ――サアッ…!

 その時、一陣の風が吹きつけ、ピンクの花びらを舞い散らした。


「ありがとう……」


 額に手をやり、前髪をかきあげながらもらした彼のその呟きは、踊る風と梢のざわめき、そしてピンク色の空気の中に、融(と)けて消えた。

 彼を撫でてゆく花びらが、あたたかな彼の涙だと……そう見えたのは、気のせいだろうか……?
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