僕たちの時間(とき)
「わあ、綺麗」

 そう言って、僕の隣を歩いていた彼女がフと足を止めた。

 その視線の先には花屋。

 つられて僕もそちらへと目を向けると、その途端、店の軒先に並べられていた色とりどりの花々が鮮やかに視界に飛び込んできた。

 もう秋も過ぎ去ろうという季節ではあるが、それにしては暖かい陽気の、素晴らしく良く晴れた今日のこと。

 思わず今が春であるかのような錯覚に捕われる。

「今日はこんなに良い天気ですものね。こんな日は、花たちだってお陽サマの光を一杯に浴びていたいわよね」

 うっとりとした風情で花を見つめ微笑んでいる彼女の横顔を眺めながら、僕も「そうだな」と同意の言葉を返した。

 それから改めてもう一度、花たちを振り返る。

「しかし、もう冬だっていうのに、咲いてるとこには咲いてるモンなんだな……」

 周囲の並木の公孫樹(いちょう)は既に葉どころか実まで落とし切っており、まるで枯れ木のような様相を呈して立っているというのに……花どころか葉すら失くなるこの季節、その空間だけが、何だか妙に違和感を覚えさせた。

 そんな僕を見上げて、彼女は訊く。

「季節外れのお花、なんて……聡(さとし)くんは嫌い?」

 その問いには、僕はただフルフルと首を横に振って答えた。

「好きとか嫌いとか、そんなことはわからない。季節に関係無くオールシーズンで使われてる花とかありそうだからな、それなりに需要があるからこそのことだろうと思うし。――ただ、ちょっと……」

「『ただ、ちょっと』?」

「ちょっと、花が可哀想かもな、って……」

 答えた僕を、少し驚いたように瞠った瞳で見つめて。

「そうね…そうかもしれないわね……」

 呟くと、彼女は視線を花たちのもとへ戻す。

 そして言った。

「でも…だからこそ、私は好きなのかもしれないわ」
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