僕たちの時間(とき)
 水月(みつき)の病気が一頃よりも悪化してきていることは、僕も知っていた。

 この初秋から入院生活を余儀無くされていた彼女だったが、一見、以前の彼女と何の変わりも無いようだったのに……僕や他の誰彼と接している姿は相変わらずで、入院していてさえ、ひとかけらとて病(やまい)にやつれた姿など覗い見せたこともなかったから。

 しかし、病魔は確実に彼女を蝕(むしば)んでいたのだ。

 病気が発覚してからこっち、それまでガンの進行を薬で抑えてきていたが、ここへきて徐々にそれが意味を成さなくなってきていた。

 データ、という名の数字は正直だ。何の躊躇(ためら)いのカケラも無く、確実に、死へのカウントダウンを刻んでゆく。

 水月の姉である満月(まつき)さんからその事実を明かしてもらった時、その場で、気付いたら僕は1つの“お願い”をもちかけていた。

『ほんの少しの時間だけでいいんです。天気の良い日にでも外出させてくれませんか? ――水月と、2人で……』

 一瞬、驚いたように僕を見つめ返した満月さんだったが、すぐにフッと瞳を伏せた。

『少し考える時間を頂戴。両親や医者(せんせい)とも相談してみるから』

 しかし、その許可は呆気ないほどに早く下りた。

 きっと、皆には解っていたに違いない。


 ―――この“外出”が、僕たちの“最後のデート”になるってこと……。
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