僕たちの時間(とき)
 それは皆の優しさだったのだろうと思う。

 既にカウントダウンを始めてしまった、日々残り少なくなってゆく命を抱えた水月だから。

 せめて、まだ動けるうちに。

 せめて、苦しみの少ないうちに。

 彼女がやりたいと思ったことは可能な限り全てやらせてあげたい。

 彼女の思うままに生きてもらえればいい。

 幸せな思い出を、今のうちにたくさんたくさん、作っておいて欲しい―――。

 水月は、そんな周りの愛情を全て理解し、静かに受け止めてくれていた。

 入院したばかりの頃、彼女が僕に言ったことがある。

『みんなが私を大切にしてくれようとする気持ちがわかるから、だから私は充分に幸せなの』

 そのセリフで、「もうこれ以上は何もいらない」のだと、その笑顔で、全身で、周囲の皆から注がれる愛情を…ともすれば“重荷”にさえもなり兼ねないほどに深い情を、その頃の彼女は頑なに否定していた。

 この頃が、きっと彼女が最も不安定な気持ちを押し隠して過ごしていた時期だったように思う。

 だが、いつしか彼女は、全てを静かに受け止められるようになっていた。

 諦め…ではない、だがそれに似た“何か”が、徐々に彼女を変えていったのだと思う。

『聡くんのおかげだよ』

 そう、笑って彼女は言ってくれた。

『聡くんが私のことを愛してくれているって、それがわかるから…信じられるから。だから私は生きていられるの。残り少ない命だから…だからこそ精一杯生きていこうって、思えるの』
< 158 / 281 >

この作品をシェア

pagetop