僕たちの時間(とき)
「――水月は枯れたりなんかしないよ」

 僕の発した唐突なその言葉に、「え…?」と、不思議そうな表情で彼女が振り向く。

「オレにとって水月は“枯れない花”だよ。例えこの世の中から水月の存在が“枯れて”失くなってしまったとしても、オレの中の水月は枯れたりなんかしない。むしろ、だからこそ綺麗に咲いた姿のままで、オレの中で永遠に生き続けるんだ。精一杯生きようって輝いてる、今の水月の姿のままで……」

「聡くん……!」

 見下ろした僕を、丸く見開いた眼(まなこ)で見上げていた彼女の瞳が、ふいに潤んだ。

 そのまま僕の胸の中に飛び込んでくるように抱き付いてくる。

「ホントにもうッ…! 何でこう、聡くんにはかなわないんだろう私……」

 涙を含んだ声で拗ねるように呟く彼女を抱き締めて、その柔らかに流れる長い髪を、僕は軽く撫でた。

「ナニ言ってんだか。そう鍛えてくれたのは水月のクセに」

 冗談混じりの僕の返答で、クスクスと、腕の中で水月が笑う。

「ひどいなぁ…。――でも、その通りかもね。ここしばらくで、聡くんには私、いっぱい面倒ばっかりかけてきちゃったから……」

「おかげでずいぶん逞しくなっただろ?」

「うん。聡くんたら、私を置いて1人でどんどん逞しくなっていっちゃうんだもの。すっかり“男の人”に、なっちゃったよねえ……」

 ――うん? 何か今、聞き捨てならないコトバを、聞いたような気がするぞ?
< 159 / 281 >

この作品をシェア

pagetop