僕たちの時間(とき)
「なんだよソレ。…じゃあ水月は、今までオレのことを何だと思ってたワケ? 男だとは思ってなかったんだ? それこそヒドイじゃん」

 憮然とした僕のセリフで、ちょろっと顔を上げた彼女はイタズラっぽく微笑むと、くりっと輝かせた瞳で僕を覗き込むように見上げて、それを告げる。

「だって“仔犬”ってカンジ」

「“犬”ですかい」

 言われて、途端にガックリと脱力した。

「せめて人間に例えてくれよ……」

 まだ“子供”とでも言われた方が、“仔犬”よりはショックが少なかったのではないだろうか……。

 だが水月は、相変わらずニコニコと続けて下さる。

「だって聡くん、ウチのシルヴィが仔犬だった頃にソックリなんだもん。まだ足元がおぼつかないのに、すぐポテポテ走っていっては何処かしらに衝突している姿とか、もう可愛くってたまらなかったのよ?」

「――それ全然フォローになってないんですけど水月サン……」

『シルヴィ』というのは、水月の家で飼っているシベリアンハスキーだ。

 一応“番犬”という名で呼ばれてはいるものの、愛情たっぷりの家庭で育てられたおかげか全く人間を警戒することの無い、既に“番犬”とは名ばかりの、やたらと人懐っこい大型犬のことである。

 確かに、毎度毎度ヒトの顔を見るなり喜び勇んで突進してくるシルヴィのことだ。

 奴ならば納得できる。

 そりゃあ仔犬の頃は、とてもじゃないけど目が離せなかったことだろう。

(そのシルヴィと同列かい……)
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