僕たちの時間(とき)
 思わず深々とタメ息を吐いてしまった僕を見て、「でも、それだけじゃなくてねッ」と、慌てたように付け加える水月。

「『大好き』って言ったら、それ以上の“好き”を返してくれるところとか。落ち込んでいたりすると、真っ先に気付いてくれて、慰めようとしてくれるところとか。…そういう、私にくれるさり気ない優しさが、似てるのよね2人とも」

「…………」

(それは……素直に喜んでいいものか、それとも落ち込むべきなのか……)

 どういう反応を返すべきなのかわからなくて、とりあえず愚痴っぽく語ってみることにする。

「つまり、オレの愛情表現はシルヴィ並み…と、言いたいんだよな水月は? 水月への愛情度は、シルヴィよりもオレの方がだんぜん、広くて深いハズなんだけどなあ間違い無く……ちゃんと水月はわかってくれていると思ってたのに……全然伝わっていなかったんだね……ショックだなあ……」

 そんなセリフを真剣に傷付いたようなフリをして言ってみたら、堪え切れなくなったように、途中で彼女が吹き出した。

「もうっ! 似合わないことしないでよーッ!」

 くっついていた体を起こして、僕の腕をぱしぱし叩く。

「聡くんが私のこと困らせようとするなんて、まだ10年は早いわよッ!」

 そう言った、笑顔のままで頬をワザトらしく膨らませてみせた彼女のカタチの良い鼻を、軽くくいっと摘まみ上げると。

 僕も笑って言い返す。

「じゃあ見てろよ! 10年後には“大人の男”になって、おもいっきりオマエのこと困らせてやるからなっ!?」

「できるものならどうぞ? そう簡単に困らせて頂いてたまるもんですか」

「そのセリフ、後悔するぜ?」

「しないわよぉーッだ!」

 そして、どちらからともなく笑い出した僕たちは、ひとしきり声を上げて笑い合った後。

 やはりどちらからともなく、自然に唇を重ね合わせた。
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