僕たちの時間(とき)
「やっぱり、オレたちの思い出を語るのに欠かせない花だから……」

「そうね……」

 水月が小さく応じたその声に被さるように、「いらっしゃいませー」という声が耳に響いた。

 ハッとして正面を向くと、そこはもう花屋の目の前で、どうやら僕たちの姿に気付いた店員がこちらに声を掛けてくれたようだった。

 さほど広くもない店内を覗いてみると、1人2人ほど花が出来上がるのを待っているらしい客の姿があり、店員は1人しかいなかった。

 客と対応しながら忙しそうに花を包んでいる様子を見て、こちらの対応が出来るようになるまでまだしばらくかかるな…と、僕は水月を振り返る。

「何の花にするか、もう決めてあるのか?」

 問いかけると、いつの間にか座り込んで足元に置かれていた鉢植えの花たちを眺めていたらしい彼女が、そのままの姿勢でふるふると首を横に振ったのがわかった。

「なに? 水月、鉢に植わってるヤツ欲しいの?」

 そして僕も、彼女の隣にしゃがみ込む。

 だが彼女はその言葉には答えずに、やおら僕を覗き込むように振り向いたのだ。

「ねえ、聡くん?」

「なに?」

「じゃあ、私には? 私には、どんな花が似合うと思う?」

「は…?」
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