僕たちの時間(とき)
 あまりにも突然投げられたその質問で、一瞬にしてアタマの中が真っ白になる。

 だが、言った張本人である水月は、にこにこと屈託の無い微笑みを浮かべて、僕の返答を待っている。

 何の他意も含みも無さそうな、その無垢な笑みに促されるようにして、相も変わらず真っ白なままのアタマの中で答えを探し出そうとするも、

「そんな、似合う花って言ったって……オレ、花の名前とか種類とかって、全然知らないし……」

 だが考えるより先に、つい口の方が動いてしまう。

 ――当たり前だ。アタマの中、真っ白なんだから……。

 しかし、僕のその言葉を聞いてさえ尚も無言のままにこにこと待つ彼女の様子に、とうとう観念して、自分の知っている限りの花を思い出しては彼女に似合うか照らし合わせてみる、という荒業に出ることにした。

 彼女がこうして無言をキープしている時は、僕が返答をしない限り、どう打っても叩いても会話がこれ以上進まないのだと……いい加減にテキトーな返答をしようものなら尚のことだ……それを僕は充分に知り尽くしている。

(うーん…、水月に似合いそうな花は……)

 バラ、ユリ、カーネーション、ひまわり、梅、桃、桜…、僕の知っている、わりと有名ドコロの数少ない花の姿と名前が浮かんでくるも、どれもイマイチそぐわないような気がしてならない。

 水月なら、何の花でも似合うことは似合うのだけど……でも違う。

 あんなに自分の存在を前面に押し出してくるような花たちじゃ、違うような気がするのだ。

 もっとこう、小さくて可憐で、できれば色は白くて……、

(――――!!)

「あ! 思い出した!」

 反射的にそんな声を上げてしまってから、ハッとそのことに気付く。

「思い出したけど……オレその花の名前、知らないんだった……」
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