僕たちの時間(とき)
 ゴメン…と隣を振り返ってみれば、僕が頭を抱えてウンウン唸りながら花を思い出そうと苦戦していた間もずっと同じ姿勢でにこにこ待っていたのだろうと思わせるほどに、さきほどと変わらない姿勢と笑顔のままの彼女が、口を開く。

「ううん、いいよ。…どんな花なのか教えて?」

「ええっと…、色は白くて、すごく小さい花。花束の中に必ず付け合わせのように入っている……でも全然付け合わせのようじゃなくて、小さいのにちゃんと存在感があるっていうか……他のでかい花を引き立てていながら、でも実は自分が一番目立ってるっていうか……そんな花」

「そう……」

「あれは、花の中でもわりと好きな方かもしれない。オレ的に」

 軽く相槌を打ちながら、言ってる僕でさえ良くわからない説明を黙って聞いていた彼女だったが。

 フと何かを思い出したような表情をしたかと思うと、その場で唐突に立ち上がった。

「水月……?」

 つられて僕も立ち上がり、不思議そうにそう軽く声を掛けるも。

 だが、彼女はそれに応えず、並べられた足元の鉢植えの奥に置かれていた棚から何かを引っ張り出してくる。

「何……?」

 ――それは籠だった。

 色とりどりの花々で飾り立てられた、おそらく籐(とう)で編まれている、小さな籠。

 フと棚を見やると、大きさも様々な見目美しい色とりどりの花籠たちが、そこには並べられていた。

 こういうのを、フラワーアレンジメント…とか、いうのだろうか。

 いかにも人の目を楽しませるインテリアとしてコーディネイトされた花々と籠たち。

 水月の手の中のそれは、吊り下げられるタイプの、両の手のひらを並べたくらいの大きさの花籠だった。

 メインは赤いカーネーション。その周りに溢れている、ピンクや紫、白の……。

「――あ!! これ……!!」

 覗き込んでいたその中に、僕はその花を見つけた。

 白くて小さい、でも不思議な存在感を醸し出す、可憐な花―――。
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