僕たちの時間(とき)
 どうやら本心から言っているらしい今度のセリフに、軽くホッとして、僕もようやくマトモな言葉を返した。

「水月がいいって言うのなら、それでいいんだけど」

 そこで丁度、手の空いたらしい店員が「お決まりですか?」と顔を覗かせる。

「ハイ。これ、お願いします」

「かしこまりました。今、お包みしてまいりますね」

 水月から花籠を受け取った店員が店の奥に引っ込むと、そのタイミングを見計らったように、彼女はクスッと笑って言った。

 その笑顔に、どこかイタズラっぽい表情を浮かべて。

「実は、あの花ね。…あんなに小っちゃくて付け合わせにするような花なのに、束にすると、すごーくお高くなっちゃうのよ? 知らなかったでしょう?」

「…………」

 もちろん、花の名前すら満足に知らない僕が、そんなことまで知っているはずもない。

「――お気遣い、痛み入ります」

「いえいえ、どういたしまして」

 いま一歩、鍛え方が足りなかったようだなァ…と、冗談混じりに深々と一礼した僕に、短く応えて苦笑を添えて。

 そして彼女はもう一言、付け加えた。

 僕の耳元で囁くように。

「だから、いつか……いつか絶対、今度は“両手一杯の花束”にして、プレゼントしてね」

 約束、と小指を立てるその姿が可愛くて、思わず即答で「了解」と肯(うなず)いてしまう。

「約束する。『いつか絶対』じゃなくて、水月が望んだ時に、叶えてあげるよ」

「ホント!? じゃあ、お誕生日のプレゼントがいいな! 今度の私のお誕生日に、絶対、プレゼントしてね! 約束よ!」

「ああ、約束だ」
< 169 / 281 >

この作品をシェア

pagetop