僕たちの時間(とき)
 左手から伝わるその“弱さ”ごと引き寄せ、僕は彼女を抱きしめた。

「忘れないよ、絶対」

 もう何度告げたかもわからないその言葉を、いつものように耳元へと囁く。

「決して忘れたりなんかしない。おまえのことだけは、絶対に忘れない。忘れられるはずなんてない」


 繰り返し言葉にして、確かめ合わずにはいられないほどに…―――。


「水月は、オレの中で永遠に咲き続ける花だから……」


 不安定さを抱えた、脆くて今にも崩れ落ちそうな“弱さ”ごと君を……、


「――愛してるから……絶対に忘れたりなんて、出来ない……」


 言葉なんて無くても解り合える気持ち。

 でも、言葉にしなければ伝わらない感情。

 確かめ合うために、必要な手段。


 ―――ズット イッショニ イテ クレル ……?


 たとえ、どんなに心に響く綺麗な言葉を紡ぎ出したとしても、その心の本当の救済とはなり得ないことは、

 充分に解ってはいるのだけれど……。


「ずっと一緒だから。いつだっておまえのそばに居てやるから」


 ―――ミツキ ハ ヒトリ ジャ ナインダ ヨ ……。


 訊かずにはいられない。伝えずにはいられない。

 心に抱える“弱さ”ゆえに、決して強くはなれない2人だから……。

 受け入れ難い“現実”を、ただ見つめるしかできない、僕たちだから…―――。
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