僕たちの時間(とき)
 それは交通事故だったそうだ。

 一瞬の自動車との接触で、当時4歳だった幼い命は、儚くも散ってしまった。

 聡は、そんな妹の“最期”に、立ち会うことが出来なかった。

 知らせを受け、駆け付けた時は……既に遅かった。


 そのことを、あいつがどんなに悔やんでいたか……そして、あいつがどんなに妹を愛し、大事に慈しんでいたか……一番近くでずっと見てきた俺には、それが良く、わかっている。

 だからこそ、何の慰めの言葉を掛けてやることすら、出来なかった。

 俺に出来たことと言ったら……あいつの涙に“見ないフリ”をしたことくらいだ。

 泣きたいまま泣きたいだけ泣かせてやることしか、出来なかった。俺には。


 ―――その時から……聡は、全く変わっちゃいない………。


 そんな出来事があっても……聡は一見、何も変わったことなど無かったかのように、日々の普段の生活を、当たり前のように過ごしていた。

 まるで、はじめから妹など存在していなかったかのように。

 でも、俺は知ってる。

 その出来事は、妹だけでなく、聡から“涙”をも奪ったのだと……。

 それ以来、俺は聡が泣く姿を見ることがなくなった。

 そんな聡は……きっと、そうやって突然に見舞われた“不幸”にも心の中でキチンと折り合いをつけて、自力で立ち直って生きていける人間なのだと……傍から見ていた人間に、そんな印象を与えることに成功していただろう。

 最初のうちは、俺もウッカリ騙されかけたが……しかし、次第にそうでないことが解ってくるようになった。
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