僕たちの時間(とき)
 むしろ“逆”だったのだ。

 受けた“傷”は、癒(い)えない。

 考えるまでも無く、そんなにもすぐに癒えるハズなんて無かった。

 ただ聡は、ひたすらに“見ないフリ”をしていただけのことだ。

 ぱっくりと開いた傷口から目を背けて、血が流れるがまま、何の処置もせずに、放置していただけだ。

 涙も見せずに……そうやって聡は、何事も無かったような表情をして、1人で苦しんでいた。

 自分の“傷”に“見ないフリ”をしているからこそ……だから聡は泣けないのだ。

 まるで悪循環。

 苦しみを涙で昇華させることも出来ず、それゆえ、苦しさに耐え切れなくなって、ますますそれから目を逸らすようになる。

 ――堂々巡り。

 それは聡が自身で気付かない限り、終わることの無い〈メビウスの輪〉だ。

 俺にも、周囲の人間の誰にも、その輪を絶ち切ってやることなど出来やしない。

 どこまでいっても見えることの無い“終わり”を唯だ願うことしか、俺には何1つとして、出来なかった。

 ―――藤沢(ふじさわ)水月(みつき)が、現れるまでは………。
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