僕たちの時間(とき)
『水月はオレの“水”なんだ』


 いつだったか、聡が照れくさそうに言ったことがある。

 その言葉通り……涙を奪われてカラカラに干からびかけていた聡の渇ききった心を、彼女は包み込むように愛することで、潤いを与えた。

 ―――やはり愛する者を失った哀しみは、再び人を愛し、愛されることでしか、癒(いや)されることは無いのだと……それを俺が悟ったのも、この時だった。

 聡も……心の奥底ではきっと、そんな苦しみから抜け出したいと願っていたに違いない。

 他のすべてを癒すかの如く穏やかな空気を持つ彼女に、聡は次第に惹かれてゆき……そして、彼女を愛するようになった。

 愛し、愛されて……そして2人は、まるで“理想”ともいえる“恋人同士”という関係に、なっていった。

 そんな2人を間近でずっと見てきた俺は、これからもずっと、いつまでも2人がそんな関係で続いていくことを、信じて疑わなかった。

 聡は、そうやっていつの日にか、藤沢に自身の“傷”を、いつの間にか完治させてもらえるのだろうと……。


 ―――でも、聡は泣いた。俺の前で、再び………。
< 185 / 281 >

この作品をシェア

pagetop