僕たちの時間(とき)




「何度、言いかけたかわからないわ……『もういいよ』って………」


 酒の酔いに任せ、トロンとした瞳で、満月が呟く。

 その“事実”を知って以来、満月は、“彼氏”である俺にさえ、決して涙を見せることは無かった。弱音すら、ヒトコトも口に出さなかった。

 そうして1人、自身の胸の内に、それを受け入れていた。

 ―――受け入れようと…していた。

『当事者の水月が何一つとして弱音なんか吐いたりしてないのに……周りの人間が真っ先にそんなこと出来ないわよ』

 そう言っては、気丈にも笑う彼女は……でも実は、そこまで強いワケでも何でもない、フツーの単なる1人のオンナだってことを……俺は知っている。

 ――解っている。

 いつかはこんな日が来るんじゃないかと……だからボンヤリと、それをいつも、頭のスミで感じていた。

 そして、案の定……今夜、突然、彼女は俺の部屋にやってきた。缶ビール1ケース分かかえて。

「久し振りに飲まない?」

「――未成年が未成年に酒を勧めるなよ……」

「ヤボなこと言わない! …つーか、日々のコンパで飲み慣れてるわたしよりも酒の強い『未成年』が、どの口さげて、それを言うかな!」

「…ビールなんかで酔えるかよ」

「だから1箱も買ってきたんじゃない。〈質より量〉よ。――それにコレ、いっちばん安い発泡酒だし。“悪酔い”ならタップリと出来るかもよ?」

「…それこそ、してたまるか」

「もう! ヒトのオゴリに、いちいちグチャグチャ文句ばっか言わない! ホラ、さっさと運んでよ! 重かったんだから!」

「はいはい、わかったよ。…付き合えばいいんだろ」


 ―――明らかに……それは“ヤケ酒”、…のようなモノだった。
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