僕たちの時間(とき)
「辛くないハズなんて無いのに……! どうして2人とも、あんなキレイな笑顔で笑えるの……? 笑っていられるの……? ――どうして……!!」


 しかし、今回ばかりは……普段のそれとは違うと、すぐさま俺は理解した。

 こうして酒に酔って俺に縋り付いてくる満月は……どこまでも打たれ弱い、心に痛みを抱えることの出来ない、そんな頼りなげな弱いオンナでしか無かった。

 それは、普段の毅然とした強いシッカリ者という満月の影に隠れて見えない、だが“本当の彼女”だった。

 心の奥に密かなか弱さを隠している彼女は……だから俺のところに来るしか出来なかったのだ。

 妹である水月の前では…そして家族の前では、限りなく強くてシッカリ者の長姉である“普段の満月”でいなければならなかったから。

 実はこんなにも弱い“本当の自分”を家族の前で出してしまうことなど、許されないと思っていたのかもしれない。

 そして、いつしか抱えきれなくなっていたのだろう。

 ――こうして、酒の勢いに任せないと何も吐き出すことが出来なくなってしまうほどに。


「『もうやめて』って、言ってしまいたかった……!! 何度も……!!」


 それこそ自分が“悪酔い”して、苦しげにその“禁句”を吐き出した彼女の頬に……そこで一筋、涙が伝った……―――。
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