僕たちの時間(とき)




 藤沢の病状が、次第に思わしくなくなってきていることを満月から聞いたのは……確か、この晩秋のことだったように思う。


『それ聞いて聡くんがね……言ったのよ。―――「水月と2人で外出させてくれませんか」って……聞くなり、それを、言ったの……』


 ―――それが、2人にとって“最後のデート”になるのだと……誰もがきっと、それを、理解していた………。


 聡と藤沢の2人の絆は、そんな状況の中でますます深まってゆくように、俺には見えていた。――まるで、わずかに残された時間を惜しむようにして。

“出来る限り”の中の最大限の時間を、互いに、2人で一緒に居ることで費やしているように思えた。

 ――だからといって……辛くないハズなんて無い。

 限りなく近い未来に迎えなくてはならない“死”というものの恐怖と……2人は共に手を取り合い、そして共に向き合おうとしていた。真っ向から。

 そうやって、心に“弱さ”を抱(いだ)くがゆえに……だからこそ、儚いまでに2人の絆は美しく、そして強く、俺の目に映った。

『“後悔”しなきゃならないような“別れ”は、もう欲しくない』

 ――それが、聡の出した“結論”だった。
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