僕たちの時間(とき)
「もう見ていられないの……見たくないの……!! ―――『もう、やめて』って……大声で言ってしまいたくて、たまらないの……!!」


 禁じられたそれに耐え切れなくて……だから満月は、俺の所に来るしか、出来なかったのだ。

 まるで〈王様の耳はロバの耳〉。

 ただ、物語と違う点は……『王様の耳がロバ』だという秘密(こと)を、周囲の全ての者が既に知っている、ということ……―――。


 彼ら2人を良く知る者たちは……既に知っている。わかっている。

 だから見守っているしか出来ない。――心に“禁句”を抱(いだ)いたまま。


 ―――2人の“絆”は……まるで、張り詰めた細い細い綱の上を渡るような不安定さで、成り立っていることを………。


 いや…もはやそれは“綱”とも呼べない、今しも切れそうな“糸”、なのかもしれない。

 いつ切れるとも解らないピンと張り詰めた細い糸の上で……いつ踏み外すかわからない足元に怯えながら……手を取り合って2人で寄り添い合っている。

 だから目が放せない。どんなに見つめるのが苦しくても。

 それゆえに、とてもじゃないけど見ていられなくなる。苦しすぎて。


 2人が、それを言われるまでも無く各々でちゃんと自覚しているがゆえに……それでも尚、共に在ろうとしているがゆえに……、

 ―――だから周囲は、何も、言えない。

 言ってはいけないと感じさせられるのだ。否応も無く。

 言ってしまったが最後……その張り詰めすぎた糸が切れてしまうと、わかっているから……―――。
< 194 / 281 >

この作品をシェア

pagetop