僕たちの時間(とき)
*
僕は花屋の店先で立ち止まった。
店の軒先では、ガラス越しに陽差しを浴びて照り輝く、色とりどりのチューリップの束が、通りすがる人々の目を惹き付けている。
「いらっしゃいませー」
奥から女性の店員が出てきて、そんな声と共に僕を迎えた。
「プレゼント用の花束ですか?」
「えぇまぁ…、そんなところです」
「どんな感じにお作りしましょうか? 今、ピンクのチューリップなんかが人気なんですよ。もう春ですから、淡い色の可愛らしい花がよく出てますね。他にはあちらの……」
客当たりのよい店員だ。こちらが口を挟む隙なく、よく喋る。
「いや、そういうのじゃなくて……」
「あら、もうお花はお決まりですか?」
「――カスミソウを……」
「え?」
「カスミソウをください。花束にして」
「カスミソウ…だけで、ですか……?」
「えぇ、お願いします」
店員の顔に一瞬、ポカンとした表情が浮かぶ。――が、そこはプロだ。
すぐにっこり笑って「かしこまりました」。
まぁ…、それもそうだろう。カスミソウなんていう、花束の付け合わせにするような花を『束にしてくれ』などと……どんな物好きだと思われても仕方ない。
でもこの花なのだ、彼女に一番よく似合う花は……。
誰が何と言おうと、それだけは譲れない。
僕は花屋の店先で立ち止まった。
店の軒先では、ガラス越しに陽差しを浴びて照り輝く、色とりどりのチューリップの束が、通りすがる人々の目を惹き付けている。
「いらっしゃいませー」
奥から女性の店員が出てきて、そんな声と共に僕を迎えた。
「プレゼント用の花束ですか?」
「えぇまぁ…、そんなところです」
「どんな感じにお作りしましょうか? 今、ピンクのチューリップなんかが人気なんですよ。もう春ですから、淡い色の可愛らしい花がよく出てますね。他にはあちらの……」
客当たりのよい店員だ。こちらが口を挟む隙なく、よく喋る。
「いや、そういうのじゃなくて……」
「あら、もうお花はお決まりですか?」
「――カスミソウを……」
「え?」
「カスミソウをください。花束にして」
「カスミソウ…だけで、ですか……?」
「えぇ、お願いします」
店員の顔に一瞬、ポカンとした表情が浮かぶ。――が、そこはプロだ。
すぐにっこり笑って「かしこまりました」。
まぁ…、それもそうだろう。カスミソウなんていう、花束の付け合わせにするような花を『束にしてくれ』などと……どんな物好きだと思われても仕方ない。
でもこの花なのだ、彼女に一番よく似合う花は……。
誰が何と言おうと、それだけは譲れない。