僕たちの時間(とき)
 やはり男だけの…しかも音楽なんてものをやってる我の強い男だけの、そんなグループの中で。

 諍(いさか)い事が全く無い、なんていうことは無く。

 なまじ皆、自分の音に関しての主義主張がしっかりとあるものだから、意見の応酬から口論に発展することなんて、もう日常茶飯事だった。

 加えて、売り込んでも採用されない、曲作りがうまくいかない、…そういった、憂鬱にハマるに充分な要素が続くと、些細なことでも争い事のネタとなる。

 ――要するに、イライラをそれぞれがぶつけ合っていたってことだ。

 高校生になったのを契機に、新しいことにチャレンジし始めていた矢先のこと。

 何事も思うようにいかなくて、皆がそれぞれの焦りと苛立ちを抱えていた。

 そんな今にも空中分解しそうに危うかった当時の僕らの関係が、現在もこうして続いているのは……水月がいつも傍にいて、見守ってくれていたからに他ならない。

 水月は何をするわけでもなく、ただじっと黙って居てくれただけだった。表面的には。

 ――しかし、メンバーの1人1人それぞれに、ハタから見たらわからないくらいの、だけどとても深い心配りをして回っていたことを、誰も何も言わないけれど皆が知っている。

 水月は僕ら4人の“つなぎ”だった。

 水月の気持ちは痛いほど伝わってきて、同時にあたたかく包まれているようにも感じられて。

 水月が真ン中にいることで、僕らはつながっていられたのだ。

 僕だけじゃなく、きっと皆がそう思っているに違いなかった。

 なぜなら、何事かあるその度、僕らは立ち直って前進することができたのだから。

 現在の僕達の充実は、すべて水月がもたらしてくれたものだと……だから僕らは、各々でそう思っている。
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