僕たちの時間(とき)
 ウチは、なんていうか…父親がちょっとした会社を経営してるような、いわゆる“資産家”という家だったから。

 小学校は私立の、やっぱりそれなりの“金持ち学校”へと通っていた。

 ――そしてやっぱり、“金持ちの子息”という輩どもは、傾向として、我の強すぎるヤツが多いのかもしれない。

 僕みたいに、誰とも馴染まず、友達もおらず、いつでもポツンと1人で…とはいえ、それをとりたてて苦にしている風でもなく、まるでアタリマエのような顔で淡々と日々を過ごしているような人間が、きっと目障りだったのだろう。

 気が付いてみたら、物が失くなるとか、教科書やノートを破かれる、といった些細なイヤガラセを日常的に受けるようになっていて……

 でも、とりたてて騒ぐほどのものでは無かったから何も言わずに放っておくうちに、だんだんとエスカレートしてきて……

 さすがに指に傷を付けられてしまってからは、常に母親の前でピアノを弾かなくてはならない以上、どうしても隠していることが出来なくなってしまったのだが。

 しかも決定的だったのが、母親が学校へイジメの件を訴えに行った、その当日のことだった。

 とうとう僕は、今となっては既に憶えてすらいない些細なキッカケから複数の同級生にリンチを受けた挙句、

 その勢いで、理科の授業で観察用に使うしか使い道のなさそうな水深もさほどない校庭の片隅にある小さな池へと突き落とされてしまうハメとなり。

 あろうことか、そのままウッカリ溺れかけてしまって。

 ゆえに即行、母が訴え出るまでもなく学校側にまで現状が知れ渡ってしまったのだった。

 …とはいえど、やはりそこは体面を気にする“金持ち学校”。

 事実があると判ったからには、あとは“モミ消す”という方向に動くだけでしか無くて。

 ――そこには、イジメてた側の主犯格のうち1人が、どっかの地方有力政治家のバカ息子だったりしたことも、何かしら絡んでいたのかもしれないが。

 ともあれ、そんな学校側の対応にブチ切れた母親が、『こんな環境じゃピアノに専念できないじゃないの!』と、半ば強引に僕を転校させることにしたのだった。
< 201 / 281 >

この作品をシェア

pagetop