僕たちの時間(とき)
 数え上げればキリが無い。

 金髪にしてツンツン立てた髪型だとか、

 だらしないくらいに着崩した制服だとか、

 学ランの下のド派手なアンダーシャツだとか、

 身体のあちこちにジャラジャラと付けられたアクセサリー…と云うには無骨すぎる鎖だとかピアスだとかバッジだとかの金属類だとか。

 一般的な“不良”と呼ばれる人種とも少々違う、――後から思えば、それは如何にも“俺はロックやってます!”って主張してる格好であったのだけど……如何せん、当時の僕は“ロック”とか“パンク”とか云う言葉すら知らなかったのだ。

 そんな僕にはよく分からない世界の雰囲気を醸し出す彼のことは、生活指導の先生に『その髪だけでも何とかせんかい!』と何度も何度もバリカン片手に追いかけられては逃げ回っている姿を、この学校にいる以上、何度も何度も目にする機会があったものだから。

 その顔と名前くらいは、いくら友人が居ない僕でも、知ってるだけなら知ってはいた。

 でも、相手は僕のことなんて、サッパリ知らないことだろう。

 隣のクラス、とはいえ、ヤツのクラスと僕のクラスは、体育の授業でも一緒になることは無いのだから。

 一緒になることがあったら、体育では毎回見学している僕のことだ、或いは多少見知っていたかもしれないが。

「いつもこーやって1人でピアノ弾いてたん?」

 案の定、やっぱり僕のことなど全く以って知らないかのような様子で、葉山は訊く。グランドピアノ越しに。

 僕は、咄嗟のことで、それに何と応えたらいいのか分からず……座っていた椅子から立ち上がることも出来ないまま、困って首を傾げつつ、何の言葉も無くヤツを見つめ返すしか出来なかった。

 そんな僕の様子に気を遣ってくれたのか、はたまた不審人物と警戒されているとでも思ったのか。

「あ、俺べつにアヤシイもんじゃねーから」と前置きしてから、葉山の方で言葉を繋いでゆく。
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