僕たちの時間(とき)
「俺こう見えても吹奏楽部なんだよ。いつもこの時間は、すぐ上の階の器楽室で部活終わった後にドラムどこどこ叩いて練習してるモンでさ、他の音って全く聞こえてねーんだ。今日はたまたま手ェ止めて外に出たら、こっからピアノの音が聞こえてきたもんだから。いつも俺がドラム叩いてた間、あんたはココでピアノ弾いてたんかなあ…? と思って」

「――そう…だけど……?」

 それが何? と問う隙も無く、即行「やっぱり!?」と返答を被せられて。

 思わず反射的に開きかけた口を噤んでしまった。

 そんな僕の様子など何処吹く風。

「あーもう、勿体ねぇことしてたよなあ俺、今まで……! ちっくしょう……!」

 …勝手に1人で悔しがってるし。

「だから、それが何……?」

 別に無許可でピアノを使っているのでは無いのだ。

 ちゃんと先生に使用許可も貰っているし。

 葉山に何を責められる覚えは無いと思うのだが……?

 眉を寄せて呟くように、ようやくそれを投げ掛けてみたら。

「『それが何』って……だってオマエ、ちょー悔しいじゃんか、こんなの!」

 ストレートに返ってくる答え。

 ――だから、それが何でかって訊いてるんじゃないか。

 …アタマ悪いのかなコイツ。

 尚も言われて、しかし全くのノーリアクションな僕の態度に苛立ったのか、「だから…!」と、多少声を荒げてヤツは言った。


「今日こうやって、この“偶然たまたま”が無かったら、俺オマエがずっとここでピアノ弾いてたこと知らなかったんだぜ!? こんなにピアノの上手いヤツが同じ学校に、しかもこんな近くに、居たってーのに……知らなかったなんて、俺バカみたいじゃん!」
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