僕たちの時間(とき)
「あぁ、うん……じゃあスタジオで……うん、わかった。――じゃ」

　僕は普通に話をし、普通に電話を切ろうとした。

　だが水月は、ふいに僕を呼び止めた。

「どうした？」

『うん……あのね、えっと……』

「何だよ、らしくねーな。ハッキリ言えよ」

『ん…。――ねぇ、聡くん？』

「何？」

『今、幸せ？』

「は？」

『私といて、幸せだった……？』

「ど、どうしたんだよ？　何でいきなり、そんなこと……」

『――そっ、そうよねっ！　そうだよねっ！　私ったらもう、何言ってんだろうっ…！　ごめんね、今日の私ちょっと変みたいでっ……！』

「…………？」

　電話の向こうにアタフタと慌てまくっている水月の姿が目に見えるようだ。

　さっきの質問は、無意識のうちにこぼしてしまった言葉…だったのでは、ないだろうか。

　その無意識の産物に多少なりとも動揺させられてしまったが、それ以上の水月の慌てぶりを聞いているうちに、こっちがだんだん落ち着いてくる。

『ごめん、今言ったこと忘れてっ……』

「――幸せ、だったよ」

『聡…くん……？』

　僕の答えは決まってる。

　言える、今なら。

　僕はもう、好きな女の子すらまともに見られなかった、あの頃の子供(ぼく)じゃない。


「オレには水月がいてくれたから幸せだった。今も水月がいてくれるから、充分幸せだ。これから先もおまえがいてくれたら、な……」
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