僕たちの時間(とき)

2.――“troublemaker”

「…オマエ、もしかして友達いねえの?」


 そう葉山に訊かれたのは、

 ――あれから何日くらい経ってからだろうか?

 とりあえず、そう日は経っていないような気がする。

 あれ以来、自分から『また聴きにきてもいいか』と言った言葉通り、葉山は放課後、部活が終わってから毎日、声楽室に顔を出しにくるようになった。

 グランドピアノに寄りかかるようにして、僕が弾いている間、何を言うでも無く邪魔をするでも無く、じっと静かに聴いていてくれる。

 そうして1曲終わるごとに、休憩しがてら、ぽつぽつと他愛も無い世間話をするようになり……そういう時に訊かれたのだ。これも。


「――『友達』……?」

「あ、いや、なんてゆーか、その……周りの誰に聞いても、オマエと親しい人間なんて知んねー、って答えばっかだったから……どうなのかな、と……」

 言いながらバツの悪そうな表情で軽く目を逸らした葉山をキョトンと見つめ、ほとんど相槌のように「友達ねえ…」などと呟きながら、しかし考えるまでもなく即答で、僕は答えを返した。

「…居たことがないな」

 アタリマエのように軽く応えた僕のことを、葉山は一瞬、驚いたように瞠った瞳で見つめ返して。

 やおら、「ふうん…」と鼻を鳴らすように呟く。

「てーか……じゃあ欲しくねえの? 友達」

「別に。『欲しい』とか『欲しくない』とか、考えてみたこともないし」

「何で?」

「『何で』って言われても困るけど……出来ないものは仕方ないだろう?」

「いっつも1人でいて、淋しくねえの?」

「――『淋しい』とかって云うことが、そもそもよくわからない」

「…ヘンなヤツ」
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