僕たちの時間(とき)
*
それから僕の日常は、呆気ないほど簡単に“それまでの日常”に戻った。
葉山は、放課後に声楽室で僕がピアノを弾いていても、あれ以来もう顔を出しにくることは無かったし。
もともと隣のクラスとはいえ全く交流すら無かったのだから、校内でバッタリ会うことも無い。
――もう……きっと葉山が、ここに顔を出すことは無いだろう。絶対に。
全く変わり映えの無い僕の日常が戻ってきた。
…それだけのことだ。
相変わらず放課後の僕は、合唱部の練習に参加して、その後に声楽室で1人ピアノの練習をして、それからレッスンのために先生のもとへ通う。
…その繰り返しが、再び訪れようとしていた。
結局、変わり映えの無い日常を変えるためだった“布石”も、やっぱり新たな“変わり映えの無い日常”と定まりつつある。
そんな矢先のこと。
――がたっ…!! ごとごと、がたっ……!!
いつものように、僕が声楽室で1人ピアノを弾いていた時のことだ。
相変わらず古くて立て付けの悪い声楽室の引き戸が、そんな派手な音を立てて開かれた。
驚いて、思わず我に返ってパッタリと鍵盤の上を動いていた指を止め、その場を立ち上がってグランドピアノ越しに出入口を見やると。
「ごめん……こんなに大きな音が出るとは、思わなくて……」
演奏の邪魔する気は無かったんだ、という低い声と共に、開いた扉の隙間からヒョッコリと覗いたのは……おそろしく無愛想に整えられた綺麗な顔。
ああ、そういえば女子が騒いでたっけな…と、そこで僕は思い当たった。
確か同じ学年の…4組のヤツだ。
見かけたことくらいはある。
名前は知らないけど。
聞いたことあるような気もするんだけど、なんだっけ?
その女子に人気のある無愛想な美形くんは、僕を見止めるなり、“あれ…?”という顔をした。
それから僕の日常は、呆気ないほど簡単に“それまでの日常”に戻った。
葉山は、放課後に声楽室で僕がピアノを弾いていても、あれ以来もう顔を出しにくることは無かったし。
もともと隣のクラスとはいえ全く交流すら無かったのだから、校内でバッタリ会うことも無い。
――もう……きっと葉山が、ここに顔を出すことは無いだろう。絶対に。
全く変わり映えの無い僕の日常が戻ってきた。
…それだけのことだ。
相変わらず放課後の僕は、合唱部の練習に参加して、その後に声楽室で1人ピアノの練習をして、それからレッスンのために先生のもとへ通う。
…その繰り返しが、再び訪れようとしていた。
結局、変わり映えの無い日常を変えるためだった“布石”も、やっぱり新たな“変わり映えの無い日常”と定まりつつある。
そんな矢先のこと。
――がたっ…!! ごとごと、がたっ……!!
いつものように、僕が声楽室で1人ピアノを弾いていた時のことだ。
相変わらず古くて立て付けの悪い声楽室の引き戸が、そんな派手な音を立てて開かれた。
驚いて、思わず我に返ってパッタリと鍵盤の上を動いていた指を止め、その場を立ち上がってグランドピアノ越しに出入口を見やると。
「ごめん……こんなに大きな音が出るとは、思わなくて……」
演奏の邪魔する気は無かったんだ、という低い声と共に、開いた扉の隙間からヒョッコリと覗いたのは……おそろしく無愛想に整えられた綺麗な顔。
ああ、そういえば女子が騒いでたっけな…と、そこで僕は思い当たった。
確か同じ学年の…4組のヤツだ。
見かけたことくらいはある。
名前は知らないけど。
聞いたことあるような気もするんだけど、なんだっけ?
その女子に人気のある無愛想な美形くんは、僕を見止めるなり、“あれ…?”という顔をした。