僕たちの時間(とき)
「あんた1人? ここに2組の竹内くんが居るって聞いてきたんだけど、どこに居るか知らない?」

「『2組の竹内』は、僕だけど……?」

「えっ!? あ、ごめん…!! オレ、てっきり合唱部の女子だと思って……!!」

「なっ……!?」

 ――フツーに男子の制服を着てる僕の、どこをどう見たら女子に見えるっつーんだよ……!!

 その失礼な美形くんは、言った途端、“ヤバ…!!”とでも言いたげにハッと手で口を塞いだけれど。

 ――遅いだろう、それは幾ら何でも!

 確かに…僕は一般的な中学生男子にしてみたら間違いなくチビだし、おまけに童顔だし、私服を着てると女の子に間違えられることだって、たまにはあるけど!

 とはいえ、だからといって、幾ら僕が女の子だと見えたにせよ、初対面の人間に面と向かって言っていいことか、それは?

 言った当の本人は、さっきまでの無愛想さが嘘のように、わたわたと落ち着かない様子で困り果てている。

 …分かった、単に“ウッカリ野郎”なだけなんだなコイツ?

 きっと、さっきの言葉にだって、何の他意も悪意も含みもサラサラ無いに違いないんだろう。

 そのまま「いや、あの、えっと…」と言わせておくだけでは埒が明かないので、とりあえず僕の方から、「何の用?」と訊いてやった。

 そしたら途端、あからさまにホッとしたように僕を見つめ返してくれやがるし。

 …やっぱり単なるウッカリ野郎だ、コイツは。

 そんなウッカリ野郎な美形くんは、軽くバツの悪そうに微笑みつつ、それを言う。

「あの……ここに光流(みつる)、まだ来てない?」

「――誰?」

「光流…山崎(やまざき)光流(みつる)、なんだけど……」

「…………」

 何を言われたのか、そして目の前のヤツが僕に何を訊きたいのか、分からないままに口の中で言われた言葉を転がしてみる。

『ヤマザキミツル』…? ――聞いたことのある名だ。
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