僕たちの時間(とき)
「くぉら、葉山!! 今日という今日は逃がさんっっ!! 大人しくお縄につきやがれ!!」

「そろそろカンベンしてよ、とっつぁーん!!」

「どぁーれが『とっつぁん』だ!! 『先生』と呼べ、『先生』と!!」

「普通、『先生』はバリカン片手に生徒を追っかけたり、しないんじゃーないでしょーかっっ!?」

「バカモン!! 追いかけられるのがイヤなら、校則に則った髪型にしてこんかァーい!!」

「めちゃくちゃ“校則通り”じゃん!! フツーに短髪だし、茶髪にもしてないし、ソリ入れたリーゼントにもしてないしっ!!」

「だからといって、金髪にしていいとは書いてないだろうが、どこにもっっ!!」

「じゃー校則を変えてくれよ、っつの!!」

「どバカモン!! オマエごときのために校則から変えてられるかー!!」

「くっそうッッ…!! ご高齢のくせに、こんなに走ると腰にきまっせ先生っ!?」

「そう思うなら定年間近の教師を走らせんな!! 少しは労われ、バカ生徒が!!」


 けたたましい足音と一緒に、そんな怒鳴り合いの応酬がコチラに近付いてくるなー…と、思ってみるや否や……、


 ――ガラぴしゃ、ばったん!!


 気が付いてみると……勢い良く閉ざした声楽室の扉にピッタリ背を付けてしゃがみ込み、葉山がぜえぜえ息を吐いて、そこに、居た。

 あの立て付けの悪すぎる引き戸を、一瞬のうちに良くもまあ、開けて閉められたものだよな……これが俗に言う〈火事場の馬鹿力〉と云うヤツだろうか?

「くぉら葉山!! 無駄な抵抗はやめて、さっさと出てこい!!」

 すぐさま、扉をドンドンと叩かれる音と共に響いてきた野太い声に、軽く「ひいいぃっ…!!」と呻きつつ、

“ここを開けてなるものか!”とばかりに葉山が更に扉を押さえつける。

 しかも撒いたんじゃなかったのか……どうせなら撒いてから逃げ込んでこいっつの。

「いい加減、見逃してくれよう!!」

「オマエこそ、いい加減、観念したらどうだ!!」

「いかに学校とはいえ、一個人の自由と個性を無下にする権利はあるのかー!?」

「オマエの“個性”とやらは行き過ぎてるんだと、ナゼわからんかー!!」


 ――てーか、そもそも、ナゼそれを、ココで、やる……?
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