僕たちの時間(とき)
「――まあまあ、先生。今日のところは、このへんで許してやったらどうですか?」


 そして、やおら扉の向こうから聞こえてきた、渡辺、葉山、先生に続く、――第4の声。

(誰だ……?)

 低い声から、男子だということは判るけれど……でも、どこかで聞いたことのあるような無いような……?

 そもそも学校内に“友人”どころか“知人”というものが極端に少ない僕のこと、思い当たるフシなんて、あったタメシが無いハズなんだけど。

 そんな僕でも、どこかしらで聞いたような覚えのある声……?

 ――ってことは……?

 ここで登場してきた“第4の人物”は、なにせ全ては扉の向こう側でのこと、僕にはよく聞こえなかったのだが、しばらく廊下で先生をとりなしていたようだった。

 やがて、「おまえがそう言うなら今回は…」などとブツブツぼやきながら先生が廊下を去っていく足音が聞こえてきて。

 しばし後、おもむろにコツコツと軽く扉がノックされる。


「もういいだろう、ケン? とっつぁんは引き上げたから……そろそろ開けてくれないか、ここ?」


 聞こえてきた言葉と共に、ふうーっとした深い息と共に葉山が脱力してその場にヘタり込み。

 そうして、つっかえるものの無くなった扉を、渡辺くんが、がたごとと引き開けて。

「…遅かったじゃんか、光流」

「ああ、ちょっとヤボ用で」

 そんな言葉と共に、開いた扉の隙間から滑り込むように声楽室に入ってきたのは……案の定。

 予想に違わず、生徒会長の山崎くん。
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