僕たちの時間(とき)
『そういやオマエ、好きな音楽のジャンルは?』


〈寝耳に水〉の如くイキナリ『バンド組む』とか『キーボード担当』とか言われて絶句したまま呆然としていたトコロに、思い出したように不意打ちでそれを問われて。

 言いかけようと口まで上がってきていた反論や文句の数々を出しそびれ、思わず僕は『は?』というマヌケなヒトコトを代わりに口から零していた。

 そのまま二の句が続かない。――続けられない。

『そんな突然「好きな音楽」とかって言われても……』

 だって僕は、“音楽”と名の付くものは、おそらく今までクラシックの名曲しかマトモに聴いたことが無いのだ。

 そんな人間に、ジャンルもヘッタクレも無いではないか。

 そもそも選択の余地すら無いのだから。


“不意打ち”というものは……やはり正常な思考能力を奪ってくれるものだと、シミジミ思う。

 どうしてここで、『そんなこと葉山に関係ないじゃないか!』と……そのヒトコトが、僕に言えなかったのか。

 もし、ここでそれが言えていたら。

 あくまでも“たとえば”の話だけれど……少なくとも、こんな事態になるようなことには、ならなかったかもしれないのに。


 軽くイライラとし始めたらしい葉山に返事を急かされ、まだどことなく呆然としたままの体で、ウッカリ素直に、それを告げると。

 一瞬あからさまにビックリしたように目を瞠ったものの、

 しかし次の瞬間には、気を取り直したように真面目くさった表情を作り、そのまま『わかった!』と1つ、ヤツは尤もらしく頷いた。

『じゃあオマエは、まず現代音楽の何たるかを知れ! …つーワケで、まず聴け!』

『は…? 「聴け」って……何を?』

『何でもいいから聴け! 聴いて慣れろ、クラシック以外の音楽に!』
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