僕たちの時間(とき)
 それを言い切った葉山の『おまえらも、何でもいいから竹内に貸してやれ!』という言葉に素直に従った2人――山崎くんと渡辺くんと、

 …そしてモチロン、言い出した張本人である葉山自身もが。

 ゆえに、こうして毎日毎日、飽きもせずにCDやらカセットテープやらを持参して、わざわざ休み時間に僕の居る教室までやってくるワケなのである。


 …それだけならば、まだ、いい。


 そもそものキッカケは何であれ、僕にとっては、知らなかった音楽に触れたことで、ちょっとしたカルチャーショックを味わうことが出来たのだから。

 クラシックしか知らなかった僕にとっては、彼らが入れ替わり立ち替わり持ち込んでくる“現代音楽”は、やけに新鮮で、そして斬新で。

 彼らが各々で“良い”と思うものを貸してくれるだけあって、本当に心を打つような耳ざわりの良い音楽にも、出会うことが出来た。

 こんな音楽もあったんだ…! という良い意味での驚きを、常に僕へと与えてくれた。

 振り返って思えば。

 日々の生活でTVを観るだけでも、そこかしこに音楽はありふれて存在していた筈なのに……そんなことにも気付けなかったくらい、心に留めることも出来なかったくらい、

 本当にこの時の僕の耳は“音楽”を知らなかったのだ。

 ――以前、レッスンを終えてから、先生に『自分が聴こうとしなければ、音楽を自分の中に受け入れることは出来ないよ決して』と言われたことがある。

 言われたその時は、なぜ自分がそんなことを言われたのかが分からなかった。

『聴こうとしなければ』って……でも、僕の耳はちゃんと“音”を聴いているのに。

 聴いているからこそ、ピアノだって弾けるのに。

 つまり僕は、自分の中に“音楽”というモノを受け入れられるスキマすら持っていなかった。

 そういうことなんだろう。先生が言いたかったのは。
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