僕たちの時間(とき)




「――最初(ハナ)っから上手くいくはずなんて無いって、思わない……?」

 部活が終わった後の声楽室へ真っ先にやってきた渡辺くんをグランドピアノ越しに眺めながら。

 タメ息混じりに、僕は告げる。

「全くテンデバラバラな方向性の人間が集まったところで……何やったって、上手くいくはずなんて無いじゃないか」

 時間のムダだよ。…と、

 今度は彼を見つめて、呆れたような口調でキッパリと言ってやった途端。

「…そうかな?」

 やっぱり真っ直ぐに僕を見つめ返した渡辺くんは、相変わらずキョトンとした表情で…でもキッパリとした口調で、それを返した。

「1つでも同じものがある仲間同士なら、他はバラバラでも、どうにかなってくれるモンじゃない?」

「『1つでも』…? あるの、『同じもの』なんて? そもそも君たちに?」

「あるだろ。――4人とも“音楽が好き”だ、っていうこととか」

「ちょっと待ってよ? 『4人』って、いま僕のことまで入れただろ人数に?」

「うん。だって同じバンド仲間じゃん」

「………勝手に『仲間』にしないでよ」

 再び、今度はキッパリはっきり、タメ息1つ。

 僕がこんなにもイヤそげな素振りをしているというのに。

 照れも臆面もなくヌケヌケと『仲間』なんて言葉を、どうして口に出せるんだろうコイツは。

 見た目の無愛想さからは想像もできないが、見知ってみれば良く分かる。

 良く言えば“素直”、悪く言えば“単純馬鹿”、という、典型的な直情径行タイプ。

 何故このタイプの連中ときたら、良く知りもしない人間を、そう簡単に『仲間』だなんて言い切れるのか。

 ただ単に、葉山が勝手に僕を『ウチのキーボード担当』と言い切っただけのことでしかないのに。


 ――コイツも苦手だ。

 話しているうちに自分のペースを狂わされてしまうから。

 葉山と同じ。

 僕が“人間”であることを思い出させようとするから。
< 232 / 281 >

この作品をシェア

pagetop