僕たちの時間(とき)
「――馬鹿じゃないの……?」


 無意識のうちに、フと僕は呟いていた。

 目の前の端正な顔から視線を逸らして。

 あからさまに苛立ちを隠しきれない声音で。


 なんでこんなにもコイツが苛立たしいんだろう。

 なんでこんなにも自分が腹立たしいんだろう。


 ――僕は“機械”なのに。


「なにが『仲間』だよ? 所詮、口先ばっかりのクセに。言うだけなら誰でも言える、そんなこと」


 コイツらが決して“口先ばっかり”では無いってこと……いちばん近くから感じているのは、僕なのに―――。

 それを信じたがっているのは、この僕、なのに―――。

 そんな自分が、何よりも腹立たしくてならない。


「『仲間』なんて軽々しく簡単に言うヤツのことなんて、信用できない」


 自分がこれまで知らなかったもの…自分とは全く違うものを、素直に受け入れられるにはどうすればいいのか。

 あまりにも僕は何も知らなくて。

 だから苛立つ。

 イライラして、気持ち全てがささくれ立つ。


 僕も同じなんだ。山崎くんと。

 ――“機械”のクセに……あまりにも“人間”なヤツらを否定できない。

“機械”でいる今の自分を維持し続けたいと思っているのに、今の自分を変えてしまうかもしれない存在に、どうしても抗いきれない。

 惹かれてならない。どうしても。

 僕は、果てしなく“人間”でいることを、知らず知らずのうちに望んでいる“機械”だ。

 その“望み”を捨て去れない。

 人間のみる“夢”を、“機械”である僕も、見てみたくて……憧れていたくて……!


「バンドなんか組んで何すんの? そんな意味もないことに僕を巻き込まないで欲しいな」


 憧れていたいあまりに……冷めた声で貶め罵るしか出来ない。

 それを受け入れる方法を知らないから。
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