僕たちの時間(とき)
『君は、俺らの実力の“根拠”が知りたいんだろう?』

 その声にフと振り返ると、相変わらずの笑顔で、山崎くんが僕を見下ろし微笑んでいた。

『だから、その曲にお互いの力量を賭けてみないか? 俺たちを代表して聡が“唄”を、そして君は“音”を』

『それは僕に……渡辺くんの唄う歌の伴奏をしろ、っていうこと……?』

『“伴奏”じゃないよ。――これは君の“演奏”だ』

『…………』

 言われた意味が分からなくて……軽く僕は眉をひそめた。

 しかし、“分からない”ということを彼に覚られるのも何だかシャクで、眉をひそめたまま、僕は彼を睨み付けるように見つめ続けた。

 やっぱり普段の“ヒトを食ったような笑み”を浮かべたまま、山崎くんは更に続ける。

『俺たちは君のピアノの腕を既に知ってるよ。ケンから君のことを聞いて以来、放課後いつも、ココで弾いてる君のピアノを聴いてたからね。せっかくケンが引っ張ってきてくれたことだし、バンドの将来のためにも、君のその腕は、正直、欲しいね。ゼヒともウチのキーボーディストとして、その腕前を生かしてくれたらと願ってるよ。――でも……』

 彼は、そこで一旦、言葉を切った。

 そして、ふいに表情から一切の笑みを消した。

 笑み…ではない形に歪んだ口許が、軽やかに僕に告げる。

 とても低く…真剣な声音で。

 ――それは紛れも無く、普段は表に出すことの無い、山崎くんの“本音”だった。


『“気持ち”の伴わない人間には……むしろ、居て欲しくないんだよな』


 ゾクリ、と……背筋を何か冷たいものが走ったような気がした―――。
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