僕たちの時間(とき)
 思わず硬直した僕に、軽いけど…でも底知れぬ迫力を覗わせる声音のまま、彼は更に告げる。

『実力云々は、確かに“上”へ行くのに必要となるものだけど。そんなことよりも、まず同じ方向を向いてる“同志”とじゃなきゃあ、一緒にバンドやる意味なんて無いんだよ。俺たちの“本気”を「馬鹿」だと笑うヤツには、正直、むしろ仲間なんかになって欲しくはないね。自分だけ安全な位置から、全てを否定ながら1人で勝手に生きてりゃいいさ』

 ――その言い方には、さすがに僕もムッとした。

『別に、意味も無く否定したりしてるワケじゃ……!』

『そうだね。ただ君は“信じない”ってだけだよな』

 言いかけた僕の反論が、アッサリとそのひとことで遮られる。

『だから“賭け”をするんだよ。――俺たちと、君と』

 そして、再び彼の表情に相変わらずの笑みが戻った。

 まるで何かを企んでいるようにも見える、不愉快にさえも感じられる笑顔に。


『聡の“唄”で。――君がコイツの“実力”を認めれば俺たちの勝ち、認められなかったら君の勝ちだ』


 軽く苛々とする。その勝ち誇ったような笑みに。最初(ハナ)っから、勝つのは自分だ、とでも言いたいかのような表情に。

『そこに僕のメリットは?』

 ムッツリと言い返した僕のことなど“お見通し”って風情で、『モチロンあるさ』と、事も無げに彼は言う。

 …苛立ちが、更に膨れ上がる。

『君が勝てば、今後一切、君への干渉は止(や)めさせていただくよ。もう“ウチのバンドのキーボーディスト”なんて扱いはしない。こうして君の練習中に押しかけることもやめるし、君の望まない音楽を聴くことを押し付けたりもしない』

『…………』

 確かに、紛うことなき“メリット”だ。

 それは僕が最も望んでいたこと。

 願ったり叶ったりじゃないか。

『ただし……』

 しかし僕の返答を待たず、相変わらずの口調で…でもキッパリと言い切るようにして、山崎くんが後を続ける。


『やるからには、君にも本気で“演奏”してもらうよ。俺たちが納得してグウの音も出せなくなるような“音”を。――それが、君の賭けるチップだ』
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