僕たちの時間(とき)
「知りたいなら教えてやるよ」

 見下ろした……そこには、今まで見たことのない、形容しがたい表情が在った。

 葉山の言葉に返事を返すのも忘れるくらい、僕の視線はその表情に引き寄せられた。

 これは何だろう?

 僕に哀れみを向けているのでも無く、蔑んでいるのとも違う……でも、悲しんでいるというワケでも無くて。

 ――ああ、きっと痛いんだ。痛みを堪(こら)えているカオなんだ。

 それにやっと思い当たったと同時。

 葉山が口を開く。


「おまえは“機械”なんかじゃねえ。…おまえは真っ当な“人間”なんだ、トシヒコ」


「え……?」

 思いもかけぬ言葉と…そして不意打ちのように呼ばれた自分の名前にビックリして、そのひとことしか返せずに僕は固まった。

 それに、家族以外の誰かから名前を呼ばれることなど初めてのことだったから。

 こういう時は、どういう反応を返したらいいのかが分からなくて。

「人間である以上、人間として生きてる以上、感情があって何が悪いんだよ? 感情を出しちゃならねえなんて、誰が決めた?」

 そうやって僕が硬直してる隙に、たたみかけるように葉山は続ける。

 淡々と。

 そして静かに。

 ――まるで普段の葉山らしくなく。

 でも何故か、とてもとても……ストレートにストンと胸の中に落ちて響く言葉。

 ――まるで渡辺くんの唄う歌のように。
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