僕たちの時間(とき)
 その言葉は、ストレートにストンと僕の胸の中に落ちてきて……どうしてか抗えない響きに満ち満ちていて―――。


 いつの間にか、告げるべき言葉のみならず声すらも、失っていた。

 目は葉山を見つめるだけの機能しか持たず、口はただ呼吸するためだけの道具になった。


「せっかく“人間”として、こうやって生きてんのに……『人間になれない』なんて救いようのねーこと、言ってんじゃねえよ馬鹿野郎……!」


 胸に…殴られたような重い衝撃と痛みを感じた。

 一瞬だけ、呼吸(いき)まで止まった。

 見上げた葉山の顔が、何故だかすごく泣きそうな表情に見えた。

 ――その表情は……先刻の渡辺くんが一瞬だけ見せた表情に、とてもよく似ていると思った。

 ああ、これだったんだ、と……ふいに解った。

 理解したと同時、ものすごく申し訳ない気持ちで一杯になった。

 何故だか分からないけど。

 葉山に…そして渡辺くんに、僕の所為でこんな表情をさせるのは嫌だと、ふいに思えた。

 僕の方が痛くなる。胸が苦しくなる。泣きたくなる。

 いつだって普段通りの笑顔で居て欲しい。

 …願う。それをとても。心の底から。


 ――ねえ、そうしたら僕は、一体どうすればいいの……?


「アイツは…サトシは、な。生きてる人間に“生きる”ってことを否定されんのが何よりも嫌いなんだよ。――『死ぬべきじゃない人間が死ななくちゃいけない時もあるのに、まだ生きてられる人間が自分から死ぬなんて、そんなのは傲慢だ』って。…だから腹が立ったんだろ、オマエにも。オマエが何を思ってようが、ハタから見たら立派に“人間”として“生きて”いるクセして。なのに『生きてたって何の意味も無い』まで、言われちゃーな」

 おもむろに葉山が告げた言葉。

 それは僕に、少なからずの衝撃を与える言葉だった。


「知ってたか…? ――サトシは小学生の時、交通事故で大事な妹を亡くしてんだってさ」
< 256 / 281 >

この作品をシェア

pagetop