僕たちの時間(とき)




 一つ上の階へと階段を上っていく。

 一段一段、踏みしめるようにして。

 重い両足が、まるで枷のように僕の気持ちに纏わり付く。

 それでも僕は、前に進むしかなかった。

 ――そうしなくちゃいけないのだ。


 なぜなら、“無知”であるという“罪”を、僕は、犯してしまったのだから―――。


『サトシは小学生の時、交通事故で大事な妹を亡くしてんだってさ』


 葉山が言った、その事実に。

 即座にガツンと脳天を殴られたような…そんな衝撃を、僕は、覚えた。

 あまりの衝撃に、吸い込んだ息がノドで詰まる。

 目を開けているのに何も見えなくなる。

 それくらい……同時に、自分が如何に取り返しの付かないことを仕出かしてしまったのかを、理解した。

 ――親しい家族を亡くす、ということに対する悲しみを……幸いなことにまだ僕には、推し量るくらいしか、理解することは出来ないけれど。

 それでも解る。

 自分が言ってしまったことは、事故で亡くなったという彼の妹さんに対する…そして本意でない死を迎え受け入れた全ての死者に対する冒涜(ぼうとく)だった。

 生きてここに在る者の、それは驕りでしかなかった。

 葉山に諭されて……ようやく今さらになって、そのことに気付くことが出来た。


『知らないことは罪にならない。けれど、知らないから何を言ってもいい、ってワケなんて、尚のこと絶対に、ある筈なんて無いんだ』


 山崎くんの言う通りだ。

“知らない”と云うことは、たとえ罪にはならなくとも、確実に何かを傷付ける。
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