僕たちの時間(とき)
「そして、ピアノでそれが出来るのは……、――オマエだ、トシヒコ」


「――――!!」


 それは、まるで不意打ちだった。

 渡辺くんを中心に思い描いていた“未来予想図”の中に突然、全く想像もつかないような“異物”を差し挟まれて。

 自分が今なにを言われたのかが咄嗟に理解できず、面食らったままキョトンと、それを言った葉山の顔を改めて見上げてしまった。

 そんな僕を、やっぱり相変わらずの真剣な瞳で真っ直ぐに見つめ返しながら。

 葉山は、続ける。

「だからオマエが必要なんだ、トシヒコ」

「え……?」

 ――今、『必要』と言った……?

 僕を、葉山は『必要』としてくれるって……?

 渡辺くんが居れば僕は『必要ない』と、その口で今しがた言ったばかりなのに。

 一体、何故……?

「“上”に行くためには、多かれ少なかれ、“才能”ってモンも必要になってくるんだよ。それこそ、天下を取れるくらいの“分”を持ってるヤツが。それでこそ俺たちは、“無敵”にもなれる」

 見上げる視線に疑問符を浮かべるだけの僕を、至近距離から見つめてそれを言う葉山の横から。

 ふいにヤツを遮るように差し挟まれる、――その、言葉……。


「――あとは君が決めることだ」


「え……?」

 振り返ると、やはりニコリともしない表情のままで、先刻から変わらぬ姿勢で立ち尽くしていたのだろう山崎くんが、そこに、居た。

 そこに居て今は、コチラを向き、僕を真っ直ぐに見つめていた。

 真剣な瞳。

 相変わらず僕を探る…というよりは試し値踏みしているかのような、視線。
< 262 / 281 >

この作品をシェア

pagetop