僕たちの時間(とき)
「元を質せば、そもそも俺たちは聡の唄に惚れ込んでるんだ。そのために、だから俺たちはバンドだって作った。俺もケンも目的は同じなんだよ。聡を、全ての人々から愛される歌い手にすること。聡には気持ちよく、そして思う存分、心ゆくまで、唄って欲しい。それでアイツが伸びてゆけるなら。そのためには何だってしてやりたいと思ってる心から。ヤツの唄をメジャーにしたい。世に知らしめてやりたい。それを願ってる。それも全て、アイツが俺たちに“夢”を見せてくれるからだ。そう出来る才能を、アイツが持っているということだからだ」

 声の抑揚も無く、表情も変えず、それを淡々と山崎くんは語る。

「つまり、それが“才能”というモノを持つ人間の…“天才”であるがゆえの“義務”なんだよ。他人から掛けられる勝手な“夢”やら“期待”やらの“枷”を背負って、でも決して押し潰されず、その重圧に耐えながら常に前へ向かって進んでゆけること。――それが“分”ってヤツなんだ。その“分”をわきまえて前に進もうと足掻ける人間にこそ、そういうヤツになら……! 俺たち凡人も、安心して“夢”を預けられる。同じ場所から一緒に未来を見つめていける」

「…………」

「竹内くん、君は……確かにケンの言う通り、素晴らしい“才能”ってヤツを持っている“天才”だと、俺も思うよ。でも、かの発明王エジソンも言ってる通り、『99%の努力』ってヤツが伴ってなけりゃ、生来どんなに優れた能力を持っていたところで、それは所詮、“天才”とは呼べないんだよ」

 彼は淡々と、でも淀みなく流れるように言うと、そこで一旦、言葉を切った。

 そして、ふいにツッと半歩前に踏み出したかと思うと、僕の肩を、とてもじゃないけど“軽く”とは呼べないほどの力を込めて、掴む。

 咄嗟に彼の手から逃れようという気持ちが働いたか半身で仰け反った僕を、逃すものかとばかりに、更に力を込めて引き寄せ。

 至近距離から囁いた。

 とてもとても低い声で。睨むような視線で。


「最初から、生きていく中で、その『99%の努力』を…“枷”を背負うことすらも放棄してる君には。――到底、“夢”を預けるに値しないね」
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