僕たちの時間(とき)
 何かを望むことを怖がっていた。

 望んで、それゆえに何かが変わってしまうことを恐れてた。


 でも、今は違う。

 こんなにも望んでいる。


 彼らと共に在ることを。

 彼らと共に未来を描きたいと。


 今までの僕に足りなかったものを、否定しては捨て続けてきてしまったものを……こんなにも取り戻したいと―――。


 気が付いたら……僕の手が、そろそろと目の前の扉を引き開けていた。

 押し寄せてくる音の波に、途端ひるみそうになる気持ちを何とか前に押し止(とど)めて。

 開けた視界の向こうを見やる。

 ――窓辺に立つ渡辺くん。

 ――その横で椅子に座ってギターを奏でる山崎くん。

 ――反対側のスミに置かれたドラムセットの中に埋もれている葉山。

 扉を引き開けた途端、そこに居た三対の視線が、一斉に一様に、この僕へと注がれた。

 まず振り返った渡辺くんの唄が止まり、手が止まり……つられたように他の2人の手も止まる。

 扉を隔てていた廊下と同じ静寂が、室内にも訪れる。

「あ…えっと、あの、僕……」

 そんな中、ほぼ真下に向かって俯きながら小さく震える声で弱々しく口火を切ったのは、この僕、だった。

 こうしながら内心、この沈黙の空気に押し潰されそうだった。

 でも、どうしても……言いたかったのだ。

 言わずにはいられなかった。

 言わなくちゃいけないと思った。

「どうしても謝りたくて……渡辺くんに……それに、みんなにも……」

 傷付けてごめんなさい。

 知らなくてごめんなさい。

 幾ら頭を下げても謝っても取り返しが付かないけれど。

 謝って済むことでもないけれど。

 それでも……ごめん、本当に。ごめんなさい。


「本当は……ただ欲しかっただけなんだと思う。僕がピアノを弾いていることの“意味”が。――“生きている意味”が」
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